逆境で機会をつかめ 荊王の弟である公子午が秦に赴いたが、秦は彼を帰そうとしなかった。人質として留め置こうというのである。そこで荊王の側近が言った。 「臣に百金を下さるなら、公子を秦からお連れ戻しましょう。」 その側近は荊王から百金を受け取り、晋に赴いて叔向に会って話した。 『秦が荊王の弟を捕らえて帰そうとしません。ここに百金がありますので、あなた様が荊王の弟の件をうまく処理してくださいませ。』 叔向は金を受け取ると、晋の平公に謁見して言った。 『秦との国境である壼丘に城を築くことができるようになりました。』 『どうしてか。』 『荊王の弟が秦に赴いたのに、秦は帰そうとしません。このため両国の関係は悪化しております。ですから我が国が壼丘に城を築いても、これを阻止できないでしょう。もし阻止しようとするなら、荊王の弟を出国させれば城を築かないと言えばよいのです。秦が荊王の弟を出国させれば、荊は我が国の恩に感謝するでしょう。もし出国させなければ両国の関係は決定的に悪化し、我が国は壼丘に城を築くことができます。』 平公はすぐに壼丘に城を築きながら、秦に言った。 『荊王の弟を出国させるなら、城はあえて築かぬ。』 秦はやむなく荊王の弟を帰した。荊王は大いに喜び、錬金百金を晋に献じた。 荊王の側近と晋の叔向などの敏腕家が努力して事態はうまく収まったが、実は敏腕家が乗り出さなくてもよいので、収拾すべき事態が起きない方がより望ましい。 宋の王が斉と戦って勝ち、武宮を建築した。その作業場で癸という者が作業歌を歌った。その歌があまりに味わい深く、道行く人は足を止め、働く者は怠けることを知らなかった。 王がそれを聞いて癸を呼び、褒美を与えた。すると癸が言った。 『私の師である射稽は、私よりはるかに上手に歌われます。』 王が射稽を呼んで歌わせると、道行く者は足を止めず、働く者は怠けた。 癸ほど上手ではないと判断した王が工事の進捗状況を比べてみると、射稽が歌った場合の方が癸が歌った場合より2倍も進んでいた。 ■現代経営のポイント 表題の言葉は、太公望の著書と伝えられる「六韜三略」の文韜に出てくる言葉である。 幸運のチャンスや成功への転機は、困難のなかに訪れる。会社員も要職から昇進する例はまれである。閑職にあるときにこそ一層努力すべきであり、逆境でこそ状況判断が可能になる。ソ連のゴルバチョフは逆境から浮上した指導者である。
1990-07-31 | 鄭鉉祐
[古典と現代経営] 鄭鉉祐(淑明女子大教育院教授)逆境の中にもチャンスは多い
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