2000-12-31

[世界の碩学に聞く] 1. ポール・サミュエルソン

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[世界の碩学に聞く]1. ポール・サミュエルソン 「2001年、米経済の硬着陸はない」 新しいミレニアムが始まったとき、米国の状況はすべてが良好に見えた。ただ一つ、世界中に広がっていたミレニアム・バグに対する無用な心配だけを除いてである。我々は当時、技術革命によって豊富な雇用と実質的な物価安定、実質賃金の上昇などを期待することができた。 米国人が90年代を振り返るなら、米国の成長率は欧州やアジアのどの国よりも格段に優れた成長率を記録したと考えるだろう。 米国人の希望がまだ残っていた1年前までは、ウォール街という巣に収まっていた卵は、人々に2桁の持続的な収益率を返してくれるという兆しを見せていた。 2000年を終え、始まった2001年の経済見通しは極めて不確実である。昨年上半期が過ぎると、米国の国内総生産(GDP)成長率はそれまで走ってきた速度の半分に落ち込んだ。 これに対し、あるイタリア出身の記者は筆者に、欧州が第3四半期に3.1%の成長率を記録したと述べ、米国人が景気鈍化の指標としている3.1%の成長率とまったく同じ数値である点を想起させてくれた。 そのうえで筆者に、上記の事実についてどう考えるか、また米国だけでなく中南米、欧州、アジア、アフリカの経済を展望する上でどのような意味を持つのか説明してほしいと要請した。 世界経済のトレンドを分析する際、筆者が必ず考慮する部分がある。ウォール・ストリート(証券街)とメイン・ストリート(ここでは一般の人々の経済活動が行われる場を意味する)という別個の、しかし互いに緊密な関係を結んでいる二つの要素である。 もちろん後者の方がより重要である。メイン・ストリートでは、読者が中南米やスウェーデン、スロベニアや太平洋沿岸地域のどこにいるかに関係なく、生活し、働き、実質所得を消費する経済活動が行われるからである。 筆者のいとこたちがカリフォルニアに住んでいようとペンシルベニアに住んでいようと、彼らにはウォール街の株式や債券価格がどう変わるのかに関心を持つ十分な理由がある。彼らの関心は大部分、証券市場の変化が彼らの賃金や就業機会にどのような影響を及ぼすかに集中しているため、自然なことである。 1999年末、ウォール・ストリートとメイン・ストリートはいずれもバラ色の見通しを示した。しかし昨年は、簡単に言えばウォール街の株価は下落した。 特にバブルに満ちていたいわゆる新経済株、すなわち技術、通信、バイオ、製薬、コンピューター、半導体、オンラインショッピング、ソフトウエア企業の株式が下落を主導した。昨年3月以来、これら銘柄の価値は実に50%以上下落した。(こうした下落はやがてフランクフルトから東京、ソウルとヘルシンキの株式市場にまで波及した) したがって米国のGDP成長率の下落は、おそらく以前の連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き締め政策と、ウォール・ストリートが主張した「富の効果」に基づく政策から誘発された住宅、自動車、投資費用の削減に原因を求めることができるだろう。 もしそうであるなら、なぜウォール・ストリートの金融政策はまだ完全に修正されていないのか。旧経済と新経済の株式銘柄がさらに混乱に陥り、流血が広がって、それでもまだ悪くない水準にとどまっている米国の3%成長率が、1%あるいは1%以下という不況を懸念するほどに落ち込む可能性はないのか。 こうしたことが発生すれば、新任のブッシュ大統領はテキサス州知事時代には決して経験しなかった大きな挑戦に直面することになる。しかも彼はすでに党派的な連邦最高裁の判決によって選出された弱い大統領ではないか。 経済は正確な科学でもなく、そうなることもできない。それゆえ筆者は、さまざまな学界、政界、企業の専門家の詳細な経済見通しを綿密に見るしかない。こうした分析の結果、筆者が示しうる最善の2001年の経済シナリオは次の通りである。 第一に、米国の成長率が5%台から3%台に落ちたことは、アラン・グリーンスパンFRB議長がある程度望んでいたことである。5%の成長率の下では、景気過熱が労働供給を逼迫させるという懸念が生じるのは妥当である。 こうした現象は、物価と賃金が上がるインフレ現象を加速させる前奏曲となり得る。結局、連邦銀行の金利が上がることになり、ウォール・ストリートを混乱状態に追い込むだろう。 第二に、筆者は「ミシガン大学経済展望」という定期刊行物を購読している。過去40年以上、この刊行物の正確性は推薦に値する。完璧ではないが、これまで発行されたもののうち最も優れている。 この刊行物の専門家たちは、米国経済が軟着陸に成功するとの見通しを示した。2000年と2001年のいずれも3%の実質成長率を記録するという展望である。彼らの予測が当たるなら、米国人と対米輸出業者はいずれも安心してよい。 不確実で不安定な日本を除けば、全般的な世界の見通しは比較的楽観的である。新しいミレニアムにとって良い兆しである。こうした軟着陸に対する見通しは、最近の株式市場までも肯定的に見ることを可能にする。 第三に、高い権威を持つ英国のエコノミスト誌は暗い見通しを示した。同誌は上で言及した軟着陸について50%の可能性もないと見た。筆者が読んだ同誌の見通しによれば、軟着陸の可能性を3分の1程度と見ていた。 残りの3分の2はさらに二つの見通しに分かれる。まず最初の3分の1は、米国が今年と来年に不況、あるいはほぼ不況に近い状況を経験することになるという可能性である。これは世界の株式市場の影響および銀行と企業債務者の不良債権に対する負担による悪循環のために現れるというものである。 こうした不況のシナリオの下では、FRBが今年半ばあるいはそれ以前までに金融政策を緩和させることを確信できる。こうした政策は一般国民のためのものだが、ウォール・ストリートでもバブルが当面維持されるという期待から金利引き下げ政策を歓迎するだろう。 もう一つの3分の1の可能性は、米国の経済成長率の下落が単に一時的だという分析である。これは投機的な投資家が数多くの新経済株の中から優良株を選び出す機会を得られることを意味する。 このシナリオでは、一時的な景気鈍化が終わって訪れる景気過熱が、現在1桁にとどまっているインフレをさらに加速させる作用をすることになる。こうした結果はFRBにとって悪夢となるだろう。 米国、さらには世界全体が1970年代のスタグフレーションに直面することになるかもしれないからである。筆者は新しい世紀に、景気低迷下でインフレが伴う悪循環だけは絶対に発生しないことを願う。 我々は皆、同じ船に乗っている。米国のジレンマは欧州に、欧州のジレンマはラテンアメリカとアジアに現れ得る。筆者は、可能な限り最悪の可能性を直視することが賢明だと考える。しかし発生確率がより高い可能性に従うことが、政治経済を判断する技術である。 クリントン政権の繁栄がブッシュ政権でも持続するかは未知数だが、筆者は現実的な根拠によってある程度肯定的な見通しを示すことにした。 ◇略歴 1915年 米国インディアナ州生まれ 1931年 シカゴ大学入学 1936年 ハーバード大学修士 1935~1938年 社会科学研究評議会会員 1941年 ハーバード大学経済学博士号取得、デービッド・ウェルズ賞受賞、MIT教授に任命 1941~1943年 米資源管理委員会委員 1947年 ジョン・ベーツ・クラーク賞受賞 1945~1952年 米財務省委員 1958~1959年 フォード財団研究所研究員 1961年 連邦準備制度理事会委員およびケネディ大統領経済顧問 1965年 国際経済学協会会長 1970年 ノーベル経済学賞受賞 現在 MIT名誉教授 ◇主要著書および論文 経済分析の基礎(1947年) 線形理論の含意(1947年) 経済学(1948年) 経済学理論と数学:評価(1952年) 公共費用に関する純粋理論(1954年) 経済学解釈(1955年) 線形プログラミングと経済学分析(1958年) 反インフレ政策の分析的側面(1960年) 数理経済学者としてのマルクス(1974年) 古典的政治経済学のモデルに関する批評書(1978年)

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