数年前までは、名刺は単に所有者の氏名と勤務先・連絡先を知らせるものにとどまっていた。しかし今では、名刺の持ち主がどのような価値を追求しているのか、所属する組織のアイデンティティーとビジョンは何かを示す代表的なマーケティング手段として定着した。とくにこうした傾向は、特定ブランドに対する消費者の考えや感情が総合的に集約されたイメージを指す「ブランディング」が重要になるにつれ、一段と際立っている。
ブランド価値を新たに知らせなければならないスタートアップ(創業初期企業)ほど、所属する役職員の名刺に経営哲学と価値を盛り込もうと力を注ぐのも、こうした理由からだ。大企業だからといって名刺の重要性を軽視しているわけではない。彼らは特有の垂直的な階層文化を脱ぎ捨て、「革新」と「開放」のための手段として名刺を活用する。
グローバルコンテンツ企業を掲げるスマートスタディの場合、創業初期から個人別のオーダーメード名刺を採用してきた。これは役職まわりではなく役職員が選んだニックネームで社内コミュニケーションを行う文化と相まって、「パーソナルブランディング」効果を最大化しているとの評価だ。約200人の役職員は本名に加え、自ら選んだニックネームを持っている。創業者の金敏錫(キム・ミンソク)代表も「族長」という愛称を付けた名刺を使う。縦型名刺の裏面は華やかなカラー地に、ピンキッツをはじめホギ・ポキなど多様なキャラクターを配し、自身の個性を表している。
同社の鄭勝元(チョン・スンウォン)マーケティング室長はニックネームが「スンスン」だ。同氏は異色の名刺を企画した理由について「ビジネスで誰かに会うとき、名刺は気まずさを解く『アイスブレーキング効果』がある」とし、「独特な名刺で一度でも独特な企業文化や革新性を語ろうという次元だ」と説明した。「オーダーメード名刺」はすなわちスマートスタディがエンターテインメント企業であることを示すだけでなく、自由な社内文化まで広報できるチャンネルだというわけだ。同氏はさらに「それぞれの構成員が会社そのものでありブランドであり、『会社が役職員の成長を支援する』というメッセージを込めている」と付け加えた。
自由旅行プラットフォームのマイリアルトリップも同様だ。青空を思わせる水色地に、社員ごとに自分が行きたい地域や都市の空港コードを入れ、会社のアイデンティティーを示す。例えばイタリアのベネチアに行きたい社員は「ベネチア・マルコポーロ国際空港」を意味する「VCE」を刻み込むという方式だ。金度娥(キム・ドア)理事は「企業のアイデンティティーと旅行プラットフォームの感性を最大限生かすため、デザイナーが多く悩んだ」とし、「水色の会社カラーと社員が行きたい地域の空港コードを名刺に溶け込ませて動機付けをしたのは、こうした悩みの産物だ」と紹介した。
「1人メディア」として活動する有名ユーチューバーも個性あふれる名刺で自らをアピールする。「外国人コリア(Den and Mandu)」を運営する呉大容(オ・デヨン)氏は、透明なフィルムの上段にユーチューブ画面形式を取り入れたデザインを印刷し、名刺を受け取った人が彼が制作した映像を見ているかのように感じさせる。英語名と電話番号、メールアドレス、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)アカウント、「いいね」表示までこまやかに盛り込まれている。呉氏は「クリエーティブという仕事の特性を示せる」とし、「日常のすべてが映像になり得るという意味で、受け取る人は『わあ、こんな名刺を作ったのか』と不思議がる」と語った。
一方、独特な個性よりも会社の価値を際立たせるシンプルな名刺を選んだ企業も少なくない。とくに大企業の系列会社は、グループ名そのものが企業と所属役職員のブランドであるだけに、会社のビジョンを示すことに力を注ぐ姿だ。代表的な事例としてLGグループは、系列会社ごとに重視する価値を名刺の右上に文句として入れて変化をつけた。LG電子は名刺の表面に「顧客と共にする未来、より良い暮らしへの挑戦」という文句を、裏面に「Life's Good」というスローガンを刻んだ。LGディスプレーは会社の中核価値ではなく製品を名刺に入れたのが特徴だ。表面にはLGディスプレーの代表的な液晶表示装置(LCD)製品であるIPS、裏面にはLGディスプレーがテレビメーカーに独占供給する有機発光ダイオード(OLED)のロゴを入れた。
サムスングループではSAMSUNG DISPLAY CO., LTD.が「想像以上のディスプレー(Display Beyond Imagination)」という文句を、Samsung C&Tが「想像し実現せよ、グローバル価値創造企業」という文句を名刺の裏面に刻んだ。系列会社の中で名刺が独特なのは広告会社のCheil Worldwideだ。蛍光黄緑・オレンジ・ピンク・黄色などの色で個性を持つ役職員を表現する。Cheil Worldwideの社員は名刺を作る際、最も一般的な白地を含め計5色の中から一つを選べる。
一部企業では名刺にQRコードを入れて活用することもある。Samsung Electro-Mechanicsが代表的だ。QRコードを認識するとホームページに自動で接続される。Samsung Electro-Mechanics関係者は「部品会社であるだけに顧客企業に合う部品を探すことが重要だが、会社のホームページに入れば顧客企業が自らシミュレーションできるため営業に有用だろう」と説明した。
このようにブランディングに焦点を合わせた名刺でも、数百・数千枚とたまれば記憶するのが難しくなるのが事実だ。モバイルアプリで名刺を保存・管理するサービスが登場した昨今も、なお対面で受け取った名刺を手書きで管理するノウハウがビジネスマンの間で口伝されているのもその理由だ。とくにアナログ感性の中高年層ほど「自分だけの名刺管理法」を持っている場合が多い。25年間勤めた大企業を退職した後、建設会社を経営する李寛永(イ・グァンヨン、65)氏は「毎晩、一日を整理しながら名刺を交換した人の印象や特徴、事業体の強みなどを簡単にメモして保管する」とし、「半期に一度程度は業種別・会社別に集めた名刺を整理することもある」と説明した。業務の特性上、多くの人に会う広報・対外業務の関係者も名刺管理に特別なノウハウがある。大企業の対外チームで働く朴賢佑(パク・ヒョンウ、43、仮名)次長は「人物の特異事項をエクセルに別途記して、チームメンバー同士で共有する」とし、「法曹・国会担当記者が取材過程で出会った主要公職者の面々を記録に残して業務に活用するのと似ている」と打ち明けた。






